問9 売買契約の解除に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。
1.買主が、売主以外の第三者の所有物であることを知りつつ売買契約を締結し、売主が売却した当該目的物の所有権を取得して買主に移転することができない場合には、買主は売買契約の解除はできるが、損害賠償請求はできない。
【解説】 他人物売買についてである。民法では他人物売買であっても「他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
」と規定し、有効な契約としている。そして、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。
つまり悪意の買主は契約は解除できるが、損害賠償までは請求できない。したがって、本選択肢は正しい記述となる。ちなみにその逆として、善意の買主であれば、契約の解除および損害賠償の請求ができる。
2.売主が、買主の代金不払を理由として売買契約を解除した場合には、売買契約はさかのぼって消滅するので、売主は買主に対して損害賠償請求はできない。
【解説】 民法545条第3項「解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない。」債務不履行により売買契約を解除すると、さかのぼって消滅する。原状回復義務も生じる。ここで、理屈として、さかのぼって売買契約が消滅するなら、その消滅した売買契約から生じた損害賠償債権も消滅するだろう、ということである。しかし、民法・判例では、前述のように損害賠償の請求を認めている。したがって、本肢は誤りの記述。つきつめていけばいろいろな解釈が出てきそうだが、宅建試験ではこの通り覚えておく。
3.買主が、抵当権が存在していることを知りつつ不動産の売買契約を締結し、当該抵当権の行使によって買主が所有権を失った場合には、買主は、売買契約の解除はできるが、売主に対して損害賠償請求はできない。
【解説】 売買の目的である不動産について存した抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。
そして、買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。また、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。
買主の善意・悪意は関係ない。したがって、本選択肢は誤りの記述となる。 実際の取引を考えてみよう。売主Xは自己の所有不動産を購入するときに、銀行でローンを組んだ。その担保として不動産を提供し、銀行が抵当権者となり抵当権が設定されている。この不動産を住宅ローン残がある段階でYへ売却する。通常抵当権を抹消する資金は持っていない。Yへ売却した資金で住宅ローンの残債務を返済するのである。そして契約した時点で買主は抵当権が設定されていることを知っているのが通常である。このように通常の取引の場合、買主は設定された抵当権について悪意であるのが一般的である。通常の取引を考慮して、抵当権の場合は、買主の善意・悪意を問わず、契約の解除も損害賠償も認められるのである。
4.買主が、売主に対して手付金を支払っていた場合には、売主は、自らが売買契約の履行に着手するまでは、買主が履行に着手していても、手付金の倍額を買主に支払うことによって、売買契約を解除することができる。
【解説】 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。(民法557条)したがって、本選択肢は誤りの記述。重要なのが、民法上は「当事者の一方が」とあるが、判例として、この「当事者の一方」とは「相手方が」という意味となる。なぜなら、民法のこの規定が、取引の相手方を保護する規定であるところ、相手方が履行に着手していなければ、例え自己が履行に着手していても、相手方に与える損害はない(低い)からである。したがって、判例の主旨からも(こちらがメイン)本肢は誤りとなる。 |